ビジネスにおいて、競争はつきものです。とりわけEC事業を営む企業の場合は、世界中の企業が競争相手となります。
今日では商品の選択肢が多く、消費者は途方に暮れてしまうこともあります。だからこそ、各商品や各ブランドの差別化ポイントを、一瞬にして理解できることを望んでいます。事業者が市場で埋もれずに目立つ存在となるためには、自社や自社商品を市場でどのような立ち位置とするか、適切に決められるようにする必要があります。
USPを正しく理解し、顧客に効果的に伝える方法を知ることは、営む事業の種類を問わず大切です。こうしたことが、ブランディングやマーケティングにおいて意思決定をする際にも役立ちます。
USPとは
USP(ユニークセリングプロポジションまたはユニークセリングポイント)とは、ある企業や商品のみが有するもので、他社との差別化要因となる独自の価値を指します。市場で他社と比較した際、その企業が明らかに優れている点を1~2文の短いキャッチコピーで表したものを指す場合もあります。
メッセージ性の強い、考え抜かれたUSPを形作ることで、マーケティング戦略を絞り込みやすくなります。また、企業メッセージやブランディング、キャッチコピーといったマーケティングにまつわる方針や、ターゲットとすべき顧客層についても、USPを定めることで自ずから方向性が決まってくるでしょう。
USPは基本的に、 潜在顧客がブランドに触れた際にすぐ思い浮かぶような質問、つまり「競合他社と何が違うのか」ということが一瞬で伝わるようなものとする必要があります。
USPは各企業の「売り」を表現するものであり、そのブランドや商品だけが提供できる価値に基づくものである必要があります。ただ独自性がある、というだけでは不十分です。ターゲット層が関心のあることに対して、他との違いを示さないとあまり魅力的なものとはならないでしょう。心を惹きつけるUSPとは次のようなものです。
- 断言的かつ論理的である。「品質の高い商品を販売しています」というような凡庸なメッセージを伝えるより、競合商品に対して異を唱える姿勢を理路整然と伝える方がずっと印象に残ります。
- ターゲット層が求める価値に焦点が合っている。独自性を伝えたとしても、その内容がターゲット顧客にあまり関心のないものであれば、さほど意味がありません。
- 企業行動と一致している。キャッチコピーはUSPを伝える一つの手段ですが、同時に返品ポリシーやサプライチェーンなど、さまざまな企業活動における姿勢も体現するものである必要があります。
販売する商品自体は必ずしも独自性の高いものである必要はありません。しかし、伝えるメッセージは、競合他社が実現できていない部分に焦点を当てると良いでしょう。
USPを構築する際の注意点
10%オフ、送料無料、カスタマーサポートが年中無休、返品ポリシーが魅力的など、提供する内容を具体的に伝えるのはUSPとして適切ではないため、避けるようにします。こうした要素は、効果的で説得力があるように思えるかもしれませんが、独自性を示すものではありませんし、競合他社が追随できないようなものでもありません。他社がすぐに真似できてしまうような内容です。
またUSPは、ただウェブサイトのトップを飾ることだけを目的として作成するのではなく、事業者の包括的な姿勢を示すものとして作成します。商品やブランド、顧客体験など、顧客に提供するあらゆるものにおいて反映させるようにしてください。
どのようなUSPが効果的かを理解するには、事例を確認するのが最善です。適切なUSPを作っている成功事例を8つ、次で紹介しますので参考にしてください。
USPの成功事例8選
1. 稲葉製作所
家具・物置メーカーの株式会社稲葉製作所は、自社製品である「イナバ物置」に厚めの鉄板を使用し業界最高水準の強度を実現していることが強みです。他社との差別化要因であるその頑丈さをよく表現しているのが、「やっぱりイナバ 100人乗っても大丈夫!」というフレーズです。テレビCMでは実際に100人が物置に乗っているシーンを放映しながらこのフレーズを伝えることで、頑丈さに説得力を持たせています。
2. ニトリ
家具・インテリア製品のメーカーである株式会社ニトリは、価格以上の価値がある質の高い商品を提供することで、他社との差別化を図っています。そのことをよく表しているのが「お、ねだん以上。」というフレーズで、これによりニトリの価値が消費者に広く伝わるようになりました。
ニトリのウェブサイトには「『お、ねだん以上。』創造ストーリー」というコーナーが設けられており、そこでは低価格かつ高品質の商品を作るためにどのような工夫を行ったか、という開発秘話が綴られています。商品に価格以上の価値があるということを実際の企業行動で裏付けており、一貫性が見られます。
3. サイボウズ
ソフトウェア開発を事業とするサイボウズ株式会社が手がけるクラウドサービス「kintone(キントーン)」は、誰でも簡単に業務効率化アプリを構築できることを強みとしています。サイボウズはこの強みを伝えるため「あなたの『その仕事に』」というフレーズを使用し、kintoneの柔軟さを表現しました。kintoneを使えばどんな業種の企業も、業務のシステム化や効率化を実現するアプリを作れます。プログラミングの知識も不要です。「あなたの『その仕事に』」というフレーズはその状況をわかりやすく伝えています。
また、kintoneというサービス名は、「西遊記」で孫悟空が乗っている「觔斗雲(きんとうん)」を由来としています。筋斗雲に乗って自在にすばやく業務を助ける、というkintoneの名前の語感は、kintoneの強みを非常にうまく表現できていると言えるでしょう。
4. RIZAP(ライザップ)
トレーニングジムを運営するRIZAP株式会社のプライベートジム「RIZAP」は、結果を出すことに焦点を合わせたサポート体制を打ち出すことで、他社との差別化を図っています。同社は「結果にコミットする」というフレーズを打ち出し、この強みを表現しました。RIZAPはランディングページやテレビCMで、RIZAPを活用して健康的に痩せた人々のビフォーアフター画像を使用しており、同社の差別化ポイントに説得力を持たせています。
RIZAPでは192時間におよぶ厳しい研修を積んだ専任トレーナーが、提携医師や管理栄養士、カウンセラーと連携を取りながら科学的根拠に基づいた効率の良いトレーニングや、痩せる習慣が身につく食べ方を指導しています。こうした実際の企業行動は、同社の差別化ポイントを裏付けるものとなっています。
5. Red Bull(レッドブル)
オーストリアに本社を置くRed Bull GmbH(レッドブル)が製造販売する「レッドブル」は、エナジードリンクの先駆け的存在で、カフェインやビタミンB群、アルギニンなどの成分が一度に採れることが強みです。同社は「翼をさずける」というフレーズを使い、活力をブーストできるという同商品の効果を表現しました。
レッドブルのウェブサイトでは一貫して「翼」という表現が使われています。会社紹介のページでは「人々とアイデアに翼を」、商品紹介のページでは「選べる翼。」というタイトルが使用されており、「翼」がレッドブルのブランドアイデンティティを表現する重要なキーワードとなっていることがわかります。同社の強みが「翼」という言葉でうまく表現されていると言えるでしょう。
6. BASE FOOD(ベースフード)
フードテック企業のベースフード株式会社が開発・販売する「BASE FOOD」は、1日に必要な栄養素の3分の1をすべてとれる完全栄養食であることが差別化ポイントです。同社は「からだに必要なもの、全部入り」というフレーズを使用し、この強みを表現しています。
同商品のメインターゲットは、健康に対する意識が高い30代のビジネスパーソンです。忙しい日々を過ごす人々にとって必要な栄養を手軽に摂取できるというのは魅力的で、この強みはこうしたニーズにしっかりと焦点が合っていると言えるでしょう。
7. BOOKOFF(ブックオフ)
ブックオフコーポレーション株式会社が運営する中古書店の「BOOKOFF」は、立ち読み歓迎という姿勢を打ち出しており、これが他社との差別化ポイントとなっています。同社はこれを表現するため、「立ち読み、はじめました。」というフレーズの使用を始めました。同社は創業当初より立ち読みOKという姿勢を打ち出していましたが、コロナ禍では時代の情勢を受けて立ち読みを禁止していました。3年ぶりに立ち読みを解禁したことから、このフレーズを使うようになりました。
BOOKOFFのキャラクターである「よむよむ君」は、本を開いて立ち読みしているポーズでよく描かれています。またBOOKOFFの店舗や事業、取り組みを紹介するオウンドメディアには「ブックオフをたちよみ!」というタイトルが付けられています。同社の強みである「立ち読み」というコンセプトが同社のウェブサイトやキャラクターにも反映されており、一貫性が保たれています。
8. カキモリ
株式会社ほたかが運営する文具店のカキモリは、オーダーノートやオーダーインクなど、書くことを楽しめるような文具を販売していることが強みです。同社はその姿勢を「たのしく、書く人。」というフレーズで表現しました。
カキモリのウェブサイトは、随所で手書きへの情熱が垣間見える造りとなっています。たとえば、「Our Story」というAboutページでは、入力した文字ではなく万年筆で書いた文字でカキモリのストーリーが綴られています。また、「カキモリ」という店名も「書く人」を意味します。防人(さきもり)をもじった言葉であり、漢字にすると「書き人」となります。同社の差別化ポイントが、商品やウェブサイト、店名でうまく表現されていると言えるでしょう。
USPの作成手順
ここまでUSPにおける多様な事例を確認しましたが、では各事業者が自社のUSPを設定して構築したり、改善したりするにはどのような手順を踏むのが良いのでしょうか。
USPに独自性を持たせること自体は、さほど難しいことではないかもしれません。とはいえ、これはどのような手順をたどっても同じような結果になるということではなく、推奨される手順は存在します。ここで、その手順をお伝えします。
1. 差別化要因を具体化する
まずは、自社や自社商品において差別化要因になりそうなものをすべて洗い出します。ポイントは具体的に書き出すことです。商品がヒットするか、あるいはマーケティングメッセージが刺さるものとなるかどうかは、正確に伝えられるかが肝となります。商品は顧客が本当に困っている問題を解決するものであり、顧客に確かなメリットがあるということを、企業それぞれの言葉で語られたUSPが成果を上げています。
2. 競合分析を行う
他社やそのUSPをリサーチ(競合分析)して、自社が入り込む余地のある、対応が市場で手薄となっている領域を探ります。商品のカテゴリーは競合他社のものと同じになるとしても、そのポジショニング(位置づけ)は他社と大きく変えることが可能です。たとえば靴ひとつを取っても、スタイル、快適さ、耐久性などアピールポイントは商品によって変えられます。
3. 顧客の需要を突き止める
自社が差別化できる領域のうち、ターゲット層の需要に合致するところはないか調べてみましょう。需要があるものの、他社では対応しきれていなかった領域はあるか、あるいは、顧客の課題のうち競合は解決できていないものの、自社なら解決できそうなものはあるか、探ってみましょう。
4. データをまとめる
ここまでで得た情報を活用して、USPとするのに最適な自社最大の「売り」はどれかを見極めます。
5. USPを書く
USPについて大まかな構想が決まったら、それを次のようなポジショニングステートメント(商品の市場での立ち位置や、提供する価値を説明したもの)の形に落とし込むのがおすすめです。
「【あなたのブランド名】は【ターゲット市場】に対して【価値提案の内容】のような価値提案を行うために【製品名やサービス名】を提供します。【競合他社名】とは異なり、当社は【主要な差別化要因】があります。」
上記の内容はECサイトの宣伝文句として直接使えるわけではありません。ですが、USPに何を書くべきか、ターゲット層は誰か、取り上げる価値がありそうな差別化ポイントは何かを見極めるのに役立つでしょう。
6. USPを事業全体で活用する
USPは運用次第では、ブランド名や返品ポリシーなど、ビジネスのさまざまな要素に織り込むことも可能です。こうすることで、USPを顧客に知ってもらいやすくなるでしょう。
USPを作成するのは少し時間がかかるかもしれませんが、一度作成してしまえば、広告やランディングページ、SNSマーケティングでのコピー文にも活用できるようになります。
まとめ
USPは、自社ウェブサイトで説得力のある言葉を並べるためだけに作成するものではありません。市場における商品の立ち位置を示すものです。場合によっては、自社の包括的な姿勢を世界全体に示すものとなります。
アピール力の高いUSPをつくるうえで、販売する商品自体に強い独自性をもたせる必要は必ずしもありません。自社が入り込む余地のある、市場の中で対応が比較的手薄となっている領域を探すのがポイントです。
商品の売り上げを伸ばすための方法はほかにもいろいろと存在するでしょう。ですが、競合が対応しきれていない領域を鑑みながら自社の最適な立ち位置を決める手段としては、USPが非常に優れています。
USPを作り上げて、ECサイトで販売を行う際にはぜひShopify(ショッピファイ)をご活用ください。Shopifyを使ってECサイトを構築すれば、豊富なテンプレートを利用できるため、サイトでUSPを効果的に配置できます。
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よくある質問
USPの書き方は?
- 自社や自社商品において差別化要因になりそうなものをすべて洗い出す
- 競合分析を行う
- 自社が差別化できる領域のうち、ターゲット層の需要に合致するところはないか調べる
- ここまでで得た情報を活用して、USPとするのに最適な自社最大の「売り」はどれかを見極める
- USPに関する大まかな構想をポジショニングステートメントの形に落とし込み、それをもとにUSPを書く
USPはなぜ必要?
競合他社との差別化を図り、自社の強みに焦点を合わせるためには、USPを作成することが不可欠です。USPを設定することで、全体的なビジネス戦略を抜本的に改善することも可能となります。
USPの例は?
USPを消費者にわかりやすく伝えた成功例には、ニトリの「お、ねだん以上。」、RIZAPの「結果にコミットする」、レッドブルの「翼をさずける」、BASE FOODの「からだに必要なもの、全部入り」、BOOKOFFの「立ち読み、はじめました。」、サキモリの「たのしく、書く人。」などがあります。
そのほか、個別の商品に対するキャッチコピーとしてのUSP例には、「イナバ物置」(稲葉製作所の製品)の「やっぱりイナバ 100人乗っても大丈夫!」や、「kintone」(サイボウズのサービス)の「あなたの『その仕事』に」などがあります。
文:Reina Shumiya